2026.1.30NEW

透析患者さまは、いろいろな要因から転倒のリスクが高いといわれています。今号の特集では透析患者さまが抱える骨折のリスク、転倒・転落を防ぐための方法などについて、栄養や運動、また設備など、さまざまな角度から対応法をご紹介いたします。
怖い! これからの生活を左右する
転倒転落 骨折が運命を変える
皆さまの中で、今まで転んだことのない人はいらっしゃいますでしょうか? 恐らくいらっしゃらないでしょう。転んだときに打ちどころが悪かった場合、残念ですが「骨折」になってしまうことがあります。でも、ほとんどの場合は打撲などで済んでいたと思います。しかし65歳以上の高齢者ではいったん骨折すると、図1のように骨折をした場合、明らかに生存率が下がり、3年後までに死亡率が倍増することがみてとれます。
「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021」においても、骨折1年以内の死亡率は日本では10%前後と報告されています。そして転倒は骨折や打撲といった身体の外傷だけでなく、恐怖や不安などの心理的な側面にも負の影響を与え、歩くことを躊躇させるようになります。これを転倒後症候群といい、さらに活動量が減ることになります。それから年齢を重ねるに従って透析の有無に関わらず、若いときだったら骨折しない程度の転倒でも骨折してしまったことを見聞きすると思います。実際、図2にて年齢ごとの大腿骨骨折割合をみると、高齢になるに従って骨折が急増していることがわかります。骨折に至ってしまうと入院や手術、リハビリなどで生活を脅かすことになり、体動困難になると寝たきりや施設入所になってしまうリスクが増大します。

転倒転落で骨折をする方、しない方の要因分析
多くの要因が重なりあって転倒転落、骨折になるわけですが、その要因として大きくは環境要因と身体的要因とにわかれます(図3参照)。
◉転ばぬが一番 環境要因を変えよう
「転ばぬ先の杖」ということわざがあるように、前もって準備することが重要です。言葉どおり転ばぬ先の杖はもちろん重要ですが、図3のように家の中のバリアフリー対策やより安全な経路で移動できるように生活道路の経路を見直しましょう。
◉転倒しても骨折しにくくするためには、栄養と運動が重要
転倒はどんなに気をつけていても避けられないものです。転倒を恐れるあまりに運動しない方がリスクを高めます。転びやすさには、身体的理由があります。身体的要因の中には、加齢による敏捷性低下や心臓病や足疾患、骨粗しょう症などの病気によるもの、そして薬剤によるものなどがありますが、避けがたいことが多く、そのため対策により改善可能な2点の重要因子である「運動と栄養」についてお話しします。
◉運動により筋力低下を防ぎ、骨折後の回復を助ける
言うまでもないことですが、運動により筋力低下を防ぎ、骨折後の回復を助けることができ、実際、図4のように毎日4,000歩以上の運動で生存率が上昇することがわかっています。

◉適切な栄養摂取は骨折予防のみならず、生命予後に極めて重要
適切な栄養摂取は、ヒトという動物である以上、転倒転落、骨折予防のみならず、高齢の方の寿命を左右する最大因子であります。図5のように、低栄養は体力・筋力低下や骨粗しょう症につながる骨量減少に悪影響を及ぼします。さらに意識されづらいことですが免疫力低下を起こし、生命予後に悪影響をきたします。このため適切な栄養摂取、特に高齢者では、糖尿病などの一部疾患を除いて、エネルギー源となる糖質・脂質を十分に摂ることです。具体的には、高齢になると油類を含む脂質は摂りづらくなるため、糖類やごはん、麺類などの炭水化物を十分に摂り、何よりも痩せないことが重要です。肉・魚などのたんぱく質はおいしい面もありますが、むやみに多く摂取すると、エネルギー効率が悪いばかりでなく、たんぱく分解産物が多く、リンやカリウムなどの上昇につながりますので、摂りすぎには注意しましょう。