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お役立ちコラム

よくわかる透析の基礎知識

2019.2.25

ドライウェイトのお話(3)

横浜第一病院
院長 大山 邦雄

ドライウェイト(DW)を決めるための指標
 一般に医学的にDWを決める指標としては、臨床症状(浮腫、めまい、息苦しさ等)、血圧、心臓の大きさ(CTR)、心臓超音波検査(心エコー)所見、下大静脈径、HANPなどが使われます。今回は、それぞれの意味を考えていきましょう。

1.臨床症状
 体に余分な水分が貯まった状態になると、心臓に負担がかかり、ひどくなれば心不全の状態になります。その時、まず浮腫(むくみ)が下肢などに出てきます。さらに進むと、胸水、肺うっ血(肺水腫)となり、労作時から安静時にも息切れ、息苦しさが出てきて、ベッドに仰向けに寝ると息苦しくなり、起き上がると楽になるという起坐呼吸と言われる症状が出ます。これが心不全の症状で胸部レントゲン検査で胸水や肺うっ血像がみられます。このように、水分が過剰にたまった状態ではDWを下げなくてはいけません。
逆に、起きたり、立ち上がったりするとふらつき、めまい、意識消失がおこる起立性低血圧がみられるときは、体内の水分が不足している可能性があり、DWを上げることを検討します。
臨床症状は患者さまのQOLやADLに大きく影響しますので、クリニックのスタッフに正確に伝えることが重要です。

2.血圧
 血圧は色々な因子で影響を受けます。精神的ストレス、年齢、動脈硬化、心臓機能、体の水分量などで変動します。日本透析医学会の「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」(2011年)では、心機能の低下がない、安定した慢性維持透析患者さまの降圧目標値は、週初めの透析前血圧で140/90mmHg未満とし、この目標の達成にはDWの適正な設定が最も重要であるとされています。しかし、実際には血圧は個人個人の状態で異なり、変動します。ですから、一回の血圧の高い低いでは判断せず、家庭血圧と透析時の血圧の動きを1~2週間は観察する必要があります。
心機能が正常な方では、高血圧ではDWを下げ、低血圧ではDWを上げるのが基本ですが、心機能が低下している患者さまや動脈硬化が強い患者さまでは他の指標を総合的に検討する必要があります。
透析中の低血圧もDWの検討が必要となりますが、透析間の体重増加が多く、一回の除水量が多くなると、DWが適正であっても血圧は下がることがよくありますので、注意が必要です。

3.心臓の大きさ(心胸郭比=CTR)
 善仁会グループのクリニックでは1~2か月ごとに胸部レントゲン写真(立位正面像)を撮影してCTRを測定しています。その測定方法を図1に示します。通常は、透析後のレントゲンで50%以下(女性は53%以下)が正常です。しかし、心肥大、心臓弁膜症などの器質的異常が心臓にある場合は基準が変わってきます。1~2か月ごとのCTRの動きを継時的に観察していくことが大事です。一般に、CTRが大きくなっていく場合は水分の貯留を考え、DWを下げることを検討します。

4.HANP(ヒト心房ナトリウム利尿  ペプチド)
HANPはアミノ酸28個からなるホルモンで、主に心房で合成貯蔵されて、血中に分泌されます。HANPは腎臓に働き利尿を促進するとともに、末梢血管を拡張して血圧を下げる働きがあります。HANPは循環血漿量が増加(水分過剰状態)して心房が広げられると血中に分泌されます。しかし、心房細動という不整脈や心臓弁膜症があるときは増加したり、変動が大きくDWの指標になりにくいことがあります。通常、透析患者さまでは100pg/ml以下が良いとされています。

5.心エコー所見・下大静脈径
心エコーでは、心臓の動き、心肥大(心臓壁の肥大)、心室・心房の内腔の大きさ(心拡大の有無)、心臓弁の異状、心収縮力などを観察測定して、心臓自体に問題があるか否かを診ます。同時に下大静脈の太さ(下大静脈径=IVC)と呼吸による変化を計測します。一般にDWが適正な場合には、透析終了後のIVCは6~10mmとされています。

まとめ
DWが適正か否かは、上述のような複雑な要素が絡み合っていますので、個々の患者さまの状態で判断していかなくてはなりません。日常的には、比較的簡便に得られる指標の1~5でDWの検討をしますが、これらの指標では判断できず、DWの増減を早急に決めなくてはならない時は、心エコー検査を施行して、循環器専門医に判断を仰ぐことが必要な場合があります。吉祥寺あさひ病院、横浜第一病院では循環器内科の外来を開設していますので、お問い合わせください。